ノーリツ × 九州大学 前田享史教授・樋口重和教授 共同研究 入浴による深部体温の上昇度の違いが 睡眠潜時(寝つき)や睡眠の質におよぼす影響が明らかに
湯まわり設備メーカーの㈱ノーリツ(本社:神戸市、代表取締役社長:腹巻知、資本金:201億円、東証プライム上場)は、九州大学大学院芸術工学研究院 前田享史教授、樋口重和教授の研究グループとの共同研究によって、若年から中年と幅広い年齢層を対象に実生活空間で実験を行い、入浴に伴う体温変化が睡眠潜時や睡眠の質に及ぼす影響を明らかにしました。
従来の研究で、就寝前に身体を温めることは睡眠潜時(寝つき)の短縮や、睡眠効率の増加、また主観的な睡眠の質を高めることが報告されていました※1。本研究では、就寝1時間半~2時間前に深部体温の上昇が比較的大きい入浴「しっかり浴槽浴(long bathing)」が入眠の短縮や睡眠の質改善に効果的であることが明らかになりました。なお、本研究成果は、2023年6月16日から6月18日に行われた日本生理人類学会 第84回大会にて発表され、国際誌Journal of Physiological Anthropologyに掲載されました※3。
■本研究の背景と意義
睡眠に不満を抱えている人は多く、中でも20~50代の働き世代の割合が多いと言われています※2。また、研究の分野においては、これまでにも就寝前に入浴など身体を温める行為は睡眠の改善につながるという報告がされていました。しかし、①実験室実験が多く、普段と異なる睡眠環境が睡眠評価に影響を及ぼす可能性があること、②参加者が高齢者もしくは若年者に限定されており幅広い年齢層での調査が必要であること、③体温変化の違いが睡眠に影響を及ぼす研究が少ない、という先行研究の背景を踏まえ、本研究では、(1) 実生活空間で(2)若年から中年と幅広い年齢層を対象に実験を行い、(3)入浴に伴う体温変化が、睡眠潜時や睡眠の質に及ぼす影響を明らかにすることを目的としました。
■実験方法
23~54歳の健康な男女23名を対象として、2020年12月~2021年3月に各参加者の自宅で実験を実施しました。
入浴条件として就寝1時間半~2時間前に①シャワー浴のみ、②短めの浴槽浴(平均5分)、
③しっかり浴槽浴(平均16分)の3条件(湯温40℃)で入浴してもらいました。
そして、睡眠中の活動量計の結果から睡眠潜時(グラフ1)を計測。また入浴前後および睡眠前の体温(舌下温・皮膚温)を計測。起床時には主観申告(グラフ2・3)を行ってもらいました。
■結果と考察
まず入浴による深部体温の変化では、舌下温は、「しっかり浴槽浴」では他条件と比較して入浴後に大きく上昇し、入浴後から睡眠前にかけて大きく低下しました。 睡眠前の足背皮膚温は、「シャワー浴」と比較して「しっかり浴槽浴」で有意に高く、末梢と体幹の深部体温の差が縮まっていました。
客観的な睡眠指標である睡眠潜時(寝つき)は、「シャワー浴」と比較して、「しっかり浴槽浴」の条件で、12分と有意に短い結果でした(グラフ1)。
2種類の主観的な指標(OSA睡眠調査票MA版の第2因子、および、起床時の9段階(良い-悪い)の主観申告)においても、「しっかり浴槽浴」が「シャワー浴」および「短めの浴槽浴」と比較し、有意に高得点でした(グラフ2、3)。
これらの結果から、就寝1時間半~2時間前の入浴において、「しっかり浴槽浴」は他条件と比較し、深部体温の上昇度が大きく、睡眠潜時や睡眠の質に効果的であったと考えられます。これは入浴による深部体温の上昇により、血管拡張反応が誘発され放熱が促進することで、入浴後から睡眠にかけて深部体温の大きな低下をもたらしたためと推察されます。
※1 Haghayegh S, Khoshnevis S, Smolensky MH, Diller KR, Castriotta RJ. Before-bedtime passive body heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev. 2019;46:124-35. doi: 10.1016/j.smrv.2019.04.008.
※2 Maeda T, Koga H, Nonaka T, Higuchi S. Effects of bathing-induced changes in body temperature on sleep. Journal of Physiological Anthropology, 2023, 42.1: 1-10.
URL: https://doi.org/10.1186/s40101-023-00337-0
※3 厚生労働省「平成30年国民栄養・基礎調査
携わった研究者のコメント
九州大学 大学院芸術工学研究院 前田 享史教授より
今回の研究では、就寝1.5~2時間前の適度な時間、湯温で入浴した場合に、主観的な睡眠の質を高めることが確認できました。おふろの温熱効果で深部体温を上げることで、お風呂からあがった後に手足からスムーズに放熱させることができます。そうすると、寝るまでの間に深部体温を自然に下げることができるため、ここちよい眠りにつながります。様々な生活習慣が睡眠に影響していますが、いつもの入浴をすこし変えることで、より良い睡眠習慣につながると思います。本研究は、実際の生活環境における入浴による深部体温の上昇とその後の低下と、睡眠の関係を初めて検証した大変意義深い研究です。
九州大学 大学院芸術工学研究院 樋口 重和教授より
睡眠には心身の疲労を回復する重要な役割があります。それによって、ストレスに強くなる、翌日のパフォーマンスが向上する、肌の健康が保たれるなどうれしい効果もたくさんあります。しかし、日本人の平均睡眠時間は世界で最も短く※、睡眠の質を向上させることは重要です。 本研究から明らかとなったよい睡眠につながる入浴の方法をうまく活用して眠る準備を整えましょう。 快適な睡眠は毎日の健康に貢献できると期待しています。
※経済協力開発機構(OECD)の調査では、加盟30か国中最下位
株式会社ノーリツ 研究開発本部 古賀 弘子より
経歴: 2008年に入社。社会課題解決に関心があり、大学時代から“おふろが人に与える影響”について研究、入社後も要素技術の業務に従事。新商品のガスふろ給湯器の開発にあたり、九州大学と研究を行い、“良い睡眠をサポートする入浴方法を研究。
【コメント】
睡眠は入浴に密接に関係しているうえに、健康に深く関わっています。満足した睡眠時間が取れなかったり、質が良くなかったりすると生産性低下や生活習慣病などにもつながります。特に働き世代は睡眠に悩みを抱えている割合が多いことがわかっています。毎日入るおふろで自然に“良い睡眠”をサポートし、ウェルビーイングの向上に貢献したいという思いで携わっています
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